気が付けば、目に入ったのは憎いほど綺麗な青空。
「あー…綺麗だなぁ…」
思わずつぶやいて、そして俺は首を傾げた。
おかしい。
俺はさっきまで、木の葉の連中と戦っていたはずじゃないか?そしてバラバラにされて、土の中に生き埋めされたはずだ。
それから意識が遠のいて………気づけば、ここに寝転がっていた。
雲一つ無い青空。鼻をくすぐる綺麗な花の香り。蝶々まで飛んでいるときた。
ここは―――どこだ?
おかしい。おかしい。おかしい。
馬鹿な俺の頭じゃ理解不能で、パンク寸前だ。
急に不安になって、寝転がっていた体に力を入れて上半身だけ起きあがらせれば――――誰も居ない花畑が広がっていた。
しかもよく見れば、己の格好はぼろぼろのマントではなく、着物を着ている。
着物なんてよくわからないが、死人に着せるような着方の服に混乱する。
「ははっ…これじゃまるで、俺が死んだみた、………」
い、と発言する前に、その言葉の意味を知ってしまった。着物の意味を知ってしまった。今までの状況、そして今のこの不自然な状況を理解してしまった。
つまるところ……
「俺、死んだのか?」
その言葉は、妙に俺の心に響いた割には、広い花畑ではあっという間に風のささやきに消されてしまった。
(タイトル)
死んだ?俺が?この俺様が?
嘘だろう。だって俺は不死身で、最強無敵の不死コンビの片割れで、―――――ん?
「そうだ!!角都は?!」
がば、と勢いをつけて立ち上がると、広い花畑を見渡した。
しかし、角都の姿は見えない。ほっとしていいのか、寂しいのか分からなかった。
「そう、だよな…」
角都がそう簡単に死ぬわけがないだろう。
それに、さっきから全く人を見ない。この世界が他人とリンクしているのかすら分からないのに、何しているんだろうか、俺。
はぁ、とほっとしたのかため息が漏れた。ぺたん、と花畑にしゃがみこむ。
思ったよりも死は唐突で、そしてあっけなかった。
さっきまでの戦闘がまるで嘘のようなこんな花畑にいると、今までの出来事が全部夢だったのではないかとすら思えてきた。
今の己の格好は所謂死に装束で、お気に入りのペンダントも持っていない。今まで己がちゃんと存在していたという確定的な証拠が全く無いのだ。あるのは、記憶だけ。
「うう…こういうときジャシン様に俺は見えてるのかな?」
いつも頼りにしていたジャシン様。その存在すら曖昧にさせてしまうのどかな花畑だ。
目尻に涙がたまってきて、自分らしくないと自分に怒ってしまった。
「ばかばか!俺の馬鹿!泣いてもなんにもなんねーだろうが!」
ぽかぽか、というよりごんごんと力強く頭を殴って、正気に戻そうと頑張った。
それでも目の前に広がるのは花畑ばかり。しばらくの間頑張ったのだが、変わらない現状を見て、俺は涙を我慢するのをやめた。
「ああああーー!超サイアクだぞこの野郎ーーーー!!!」
ついには花や蝶々に八つ当たりをする始末。本当、どうしようもないな、俺。
何というか、格好悪い…。
そう思うと余計気が沈んで、ぽふん、と柔らかな花畑に大の字になった。
目の前は真っ青で綺麗な空だけになり、なんだかさっきまでの嫌な事が忘れられそうになった。
「あー……暇だ。」
落ち着いてくると真っ先に出てきた感情は、退屈、だった。
なんとも俺らしいと苦笑しつつも、この状況をどうしようかと考えてみる。――が、なにかいい答えが出てくるわけでもなかった。
「暇ー……角都でも居たら退屈しのぎができるのになぁ…」
「俺はお前の玩具か」
「ったりめぇだろう?………て、角都ゥ?!」
急に隣からした声に驚き、俺は上半身を勢いよく起きあげた。
聞き慣れた声、見慣れた顔。それがそこにはあった。唯一違うところと言えば、俺と同じ死に装束を身にまとっている、というところだろうか。
「か……角、都……なのか?」
「当たり前だろう。俺以外の何があるというのだ?」
「角都ゥ…!!!」
あいつが居なくて寂しいとか、もうあいつとは会えないかもしれないとかいう恐怖とか、そんなものあっという間に消えてしまった。
何も考えずにぎゅ、と抱きしめる。人前でも二人きりの時でも滅多にやらせてくれない行為だったけれども、今日はあっさり許してくれた。その上、照れ屋の角都にしては珍しく背中に手を回してさえしてくれた。
それが愛おしくて、嬉しくて。俺はぎゅー、とますます抱きしめた。
「おい、苦しいぞ」
「そう言っている割には嬉しそうな声だぞ、角都ちゃん?」
ゲラゲラと笑うと、ぽかんと軽く頭を殴られた。いてぇじゃねぇかと笑いながら角都を見ると、恥ずかしそうにそっぽを向けていて、それが、幸せでたまらなくて。
「それにしても、ここは死後の世界か?」
「だろうなぁ…。俺たちこれからどうなるのかな?地獄か?」
「無理矢理にでも天国に行ってやるさ」
「じゃあ俺も角都についていくから天国だ!」
再び笑うとまた煩いと言われたが、そんなことどうでもよかった。
もう会えないと思っていた。死んだらバラバラになってしまうのだと思っていた。
でもこうして、今、会えている。
幸福って、暖かいんだな。
俺はにやけた顔をどうすることも出来ず、どうしようともせず、立ち上がった。
「行こうぜ、角都。歩いてりゃ三途の川でもあるんじゃねぇのか?」
「そうだな。ここにいてもどうしようもないしな」
二人して立ち上がると、俺はマスクのしていない角都に軽くキスをした。二人の時でさえ滅多に出来なかったが、今ならいくらでも出来る気がした。
死んだことは哀しいことなのかもしれないけれど、角都が居るなら、全然哀しくなんてなかったんだ。
「もう離れるなよ?飛段。」
「あったりめぇよ!」
にや、と笑えば、珍しく角都からキスが落とされた。照れ屋の彼らしい、額へのキスだったけれども。
嬉しくて、笑いが止まらなかった。
END