「いつか、この庭一面にお花を咲かせたいの!」
そう微笑んだ君は、今や居なくなってしまった。
君に送る、 γ×ユニ
懐かしい夢を、見た。
まだファミリー併合前の、幸せにあふれていた、あの日々の夢を。
まさか今こんな事になるだなんて思っても見なかった頃。幸せすぎて、夢かとさえ思えてしまうあの頃。
「……姫、」
たった3ヶ月間だけ一緒にいたカタギの少女は、今や手の届かない遠い存在になってしまっていた。
ファミリーがミルフィオーレという名になってしまったあの日。姫が変わってしまったあの日。今でも、忘れることが出来ない。
「―――姫…!!!」
寝たまま天井へ手を伸ばしても、あの細く弱そうな手に触れることなど、出来ないと分かっていても。
それでも俺は、無意識のうちに手を伸ばしていた。
あの姫は、もう、居ない。
『γ、γ、』
『なんだ?姫』
あれはいつだっただろうか。姫もすっかりファミリーに馴染んだ頃だった。
『あのね、私いつかお花畑を作りたいの!』
にこ、と微笑んだ彼女は、俺たちの太陽だった。
姫は笑顔で摘んだ花の匂いを嗅ぐと、俺にその花を渡してきた。
『一面に、このお花だけを咲かせたいの』
『それはすごいな。』
くしゃ、と姫の頭を撫でれば、「子供扱いしないで!」と、でも嬉しそうに微笑んでいた。
『早速、この花の種でも仕入れてみせましょうか?』
『うん、お願い』
俺たちの太陽は、まぶしくて、美しかった。
ある日俺は、かつて姫が欲しがっていた花をたまたま発見した。
無駄と分かりつつも、その花を片手に、つい姫の処へ行ってしまう。
「―――貴方は、何がしたいの?」
しかし姫はあっけなく花を捨てると、心の見えない瞳をこちらへ向けた。
「こんな汚い雑草を私に渡すだなんて」
床に捨てられた花。俺は泣きそうになるのを必死にこらえて姫を見た。
あの笑顔を見ることが、また、出来なかった。
その時だった。
ぼそり、と誰にも聞こえないようにと放たれた言葉を、俺は拾うことが出来た。
「―――γ、ありがとう…」
それは確かに、あの頃と同じ姫の声音で。
「―――っ!姫?!」
「さがりなさい、無礼者」
けれども姫の顔はまた無表情で、扱いもあの日から変わらない冷たいもので、けれども、けれども、
「……失礼しました。」
俺は頭を下げると、部屋から出ていった。
けれどももう、心を渦巻くのは絶望ではなかった。
あの時の声は、幻聴ではなかったと確信できた。あれは確かに、本物の姫の声だった。
(あの頃の姫は、確かに居る…)
―――いつか姫が元に戻ると信じ、俺は生きよう。
いつか再び、あの顔に笑顔があふれることを信じて。
いつしか俺の顔には、久しぶりの笑顔が表れていた。
(貴方の為に、俺は花を咲かせよう)
きっとまた、あの太陽の笑みを浮かべてくれるはずだ。
END